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現役最高齢監督として国際的に知られ、2015年4月2日に、惜しまれつつも106歳で永眠した世界の巨匠マノエル・ド・オリヴェイラ。そのオリヴェイラ監督が101歳の時に撮り上げ、第63回カンヌ国際映画祭〈ある視点〉部門のオープニングを飾った『アンジェリカの微笑み』が、紆余曲折を経て、ついに日本公開される。本作はオリヴェイラ監督が1952年に脚本を執筆したものの、映画化さ れないまま半世紀以上の歳月をかけて熟成され、その後監督自らの手で現代の物語として完成させた。
まさに、極上ヴィンテージワインのような傑作である。


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ポルトガルはドウロ河流域の小さな町。
カメラが趣味の青年イザクは、ある夜、若くして亡くなった娘アンジェリカの写真撮影を依頼され、町でも有数の富豪の邸宅を訪れる。白い死に装束に身を包み、花束を手に抱えて横たわる娘にカメラを向けると、その美しい娘は、突然瞼を開きイザクに微笑みかける。その瞬間、イザクは雷に打たれたように恋に落ちてしまうのだった。絶世の美女アンジェリカの神秘に満ちた微笑みに心奪われ、昼夜想いを馳せるイザク。その想いにこたえるように出没するアンジェリカの幻影。
一瞬にして重なり呼応する愛の波動が、この世とあの世の境界を飛び越え、ふたつの魂を引き寄せる。魔術的な映画作家であるオリヴェイラ監督だからこそ創り得た、ミステリアスで驚くほど瑞々しい、時空を超 えた愛の幻想譚。心を射抜かれるその微笑みは誰もが魅了されずにはいられない。


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青年イザクを演じるのは『、ブロンド少女は過激に美しく(』09)など、オリウェイラ映画の常連俳優であり、監督の実の孫でもあるリカルド・トレパ。
一方『、シルビアのいる街で(』07)などの人気女優ピラール・ロペス・デ・アジャラがアンジェリカに扮し、加えて、レオノール・シルヴェイラ、ルイス・ミゲル・シントラ、イザベル・ルートほか、オリヴェイラ一家とも呼べるベテラン俳優たちが脇を固め、日常の何気ない行為や会話に、そこはかとないユーモアや年輪を感じさせるエスプリを散りばめた。流麗なショパンのピアノ曲は、監督のお気に入りのピアニストで、日本でも人気の高いマリア・ジョアン・ピリスが奏で、幻想的な世界を際立たせる。舞台となるドウロ河は、オリヴェイラ監督が生まれ育った、ポルトガル第2の都市ポルトを流れる大河。この一帯の歴史地区は世界遺産に登録されている。