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パリの街を携帯電話を片手に足早で歩く、映画プロデューサーのグレゴワール・カンヴェル(ルイ=ドー・ド・ランクザン)。映画製作会社ムーン・フィルムを経営する、映画愛とユーモアに満ちた魅力ある彼は、殺人的な仕事量さえも楽しんでいるかのようだった。 仕事にも情熱を注ぎながらも、家に帰れば家族を愛する良き父親であるグレゴワールは、週末は妻シルヴィア(キアラ・カゼッリ)と3人の娘たちと共にパリ近郊の別荘で過ごしていた。思春期の長女クレマンス(アリス・ド・ランクザン)、父親譲りのユーモアを持つ次女のヴァランティーヌ(アリス・ゴーティエ)、末娘のビリー(マネル・ドリス)。今週末も一家は幸せなときを過ごしていた。

週明け、グレゴワールは現像所への負債が100万ユーロに上ったことを弁護士に忠告される。さらに彼がプロデュースを務める新作映画『サトゥルヌス』の撮影現場から、スタッフが賃金未払いでストを起こすという電話が入る。実は他に手がけた映画の興行不振で、ムーン・フィルムの経営は悪化の一途をたどっており、方々に負債や未払いが蓄積していた。結局、『サトゥルヌス』のスタッフには小切手を2枚出し、1枚はすぐに現金化しないように忠告する。賃金を分割払いにするという苦肉の策だ。そんな中でも、アルチュール(イゴール・ハンセン=ラブ)という新人監督が持ち込んだ『偶然の家族』の脚本に魅せられたグレゴワールは、映画化の検討を進めていた。

尊敬していた映画プロデューサー、アンベール・バルザンの自殺という、監督の実体験から生まれた本作。ミア・ハンセン=ラブ監督は、映画の随所に彼への想いを漂わせながらも、決して感傷に走ることなく、言葉にならない感情を映像に託しました。

郊外の別荘、旅行で訪れるイタリアの町に注ぐ柔らかな陽光と、パリの街のイルミネーション。あるいは、突然の停電に灯したロウソクの揺らめきや、優しい月明かりと星々の煌き…。人生の苦楽、強さと脆さ、生への渇望と死への衝動など、対照的な様々な要素を映し出す光と影の映像美は、それぞれが共鳴し合い、最後には忘れがたい余韻を残します。

また、映画を象徴するかのように使われる名曲「ケ・セラ・セラ」。ヒッチコックの『知りすぎていた男』(56)でドリス・ディが歌い、アカデミー賞主題歌賞を受賞したこの懐かしいメロディーが、ラストの感動をいっそう盛り上げてくれます。

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