Introduction

青い海、青い空、輝く太陽のもと、ある島の家族と、難民の母子との心の交流。明日が見えなくても、人間としていかに真摯に生きるか。おとぎ話のように優しくも力強い言葉で語られる感動の物語。

南イタリアのシチリアから遠く離れた地中海に浮かぶリノーサ島。時間が止まったような小さな島も、夏になれば観光客であふれ活気づく。しかし時代が大きく変わりゆく中、漁業が盛んだった島も衰退の一途をたどり、人々の暮らしも大きく変わろうとしていた。
父を海で亡くした20歳のフィリッポも、漁師を続けようとする祖父、観光業に転じた叔父、本土で新生活を始めたいと願う母との間で、この変化に戸惑いを隠せずにいる。そんなある日、アフリカからの難民、サラとその息子が一縷の望みを求めて、決死の覚悟で海を渡ってきた。海の掟を重んじる祖父は、法を無視して母子を救い、家に迎え入れる。しかし、この人間として尊いはずの行為が波乱を呼ぶことになる。この出来事により、家族はそれぞれに人生を見つめ直すことになるが…。

圧政を逃れて海を渡ってきた母子と、先細る生活に不安を抱える一家。両者は立場も状況も異なるが、共に不安を抱え、明日が見えない。難民の彼女たちが必死で生きようとする姿に、島の家族が自らの生活も危機に瀕しているにもかかわらず、葛藤しながらどのように応えてゆくのか。青い海と青い空、溢れる太陽の光の中で、人間の持つ本当の勇気、生きようとする力、優しさ、高貴な心を感動的に描いている。

世界の変化を見つめ続けてきた俊英、渾身の作。

監督のエマヌエーレ・クリアレーゼはローマで生まれ育ち、ニューヨーク大学で映画演出を学び劇映画監督デビュー。イタリアに再び戻ったのちは、祖父の故郷でもあるシチリアに関心を深め、一貫して南イタリアを舞台に映画を撮り続けてきた。

『グラツィアの島』(02)では、ランペドゥーサ島の自然の中で、自由で天衣無縫に生きるひとりの母親を描き、カンヌ国際映画祭批評家週間グランプリを受賞。シャルロット・ゲンズブールを起用し、20世紀初頭のアメリカへの移民を描いた『新世界』(06)では、見事ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞に輝いた。本作でも2011年同国際映画祭審査員特別賞を受賞し、審査委員長のダーレン・アロノフスキーは授賞式で『海と大陸』がいかに衝撃的であったかを熱く語り、主演のフィリッポ・プチッロを新しいスターの誕生だと賞賛した。本作はアカデミー賞外国語映画賞イタリア代表作品にも選ばれ、今やその名声は国際的に揺るぎないものになった。

クリアレーゼ監督は、イタリア・ネオレアリスモの伝統を受け継ぎながらも、テーマに鋭く迫る斬新なイメージ映像を用いて、重厚な作品世界を創りあげてゆく。『海と大陸』は彼の力を存分に発揮した傑作である。

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