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時計の針が真夜中を廻るとき、この街に魔法がかかり、夢の物語は始まる…

 イタリア映画発祥の地であるトリノの象徴、モーレ・アントネッリアーナの中にある国立シネマ・ミュージアム。映画の父リュミエール兄弟の作品からハリウッド作品まで古今東西の映画のフィルムや資料、セットが仕掛けたっぷりに展示され、さながら多くの映画人たちが残した人生を映すメリーゴーランドのようだ。このもうひとつの隠れた主役とも呼べる夢のような場所を舞台に、浮遊感をたたえながら紡がれていく愛の寓話、それが『トリノ、24時からの恋人たち』。
 シネマ・ミュージアムで夜警をしているマルティーノは孤独で夢想癖があり、ハンバーガーショップで働くアマンダに秘かに思いを寄せている。アマンダの恋人のアンジェロは、高級車を盗んでは売り飛ばす常習犯で、マルティーノとは対照的に、強引で、押しが強く、男性的な魅力にあふれている。このタイプの全く違う3人の人生が、映画の世界に迷い込んでしまったように絡み合っていく。
 バスター・キートン、フェデリコ・フェリーニ、フランソワ・トリュフォー、ジャン=リュック・ゴダール…。登場する夥しい映画への憧れと、映画への愛。さらに3人の男女が秘めている夢、そしてとりわけトリノという街への愛――。さまざまな愛と夢を、監督ダヴィデ・フェラーリオの映像の魔術はみずみずしく描き出し、主人公3人と、そして私たちにかつてあった人生への賛歌をふたたび思い起こさせてくれる。
イタリア本国で多くの支持を受け記録的な大ヒットとなり、もうひとつの『ニューシネマ・パラダイス』の誕生と絶賛された作品が、いよいよ公開となる。



映画へのオマージュを捧げた映画の誕生

 イタリア映画には、エットーレ・スコラの『あんなに愛し合ったのに』、ジュゼッペ・トルナトーレの『ニューシネマ・パラダイス』のような黄金時代の映画へのオマージュを捧げた秀作の系譜がある。そこにまた、新たに珠玉の一本として『トリノ、24時からの恋人たち』加わった。時にさりげなく、時に熱をこめて、映画ファンへのめくばせともとれるような、さまざまな映画が引用され、さながら<引用の織物>とも呼びうる傑作に仕上がっている。そこには、映画へのオマージュというだけにとどまらない、人生の機微が浮かびあがってくる。
映画は、『息子の部屋』などに出演したイタリアの名優シルビオ・オルランドの、「物語の生まれる場所は? 行く先は? それは空中の塵のごとく風に舞い、睦みあって、そして姿を消してしまう」という美しいナレーションと共に、夢とも現ともつかない<語り口>で、ファンタスティックな世界へと見る者を一気に引きこんでいく。



バスター・キートンから『突然炎のごとく』まで


 この作品では、サイレント時代に活用されたアイリス・イン(瞳孔が次第に開いていくかのように、暗い画面の中心から映像が円形に明るくなっていく技法)、アイリス・アウト(瞳孔が次第に閉じていくかのように映像が画面の周囲からだんだん円形に小さくなって消えていく技法)が意識的に使われている。とくに、マルティーノが心酔している<笑わない天才コメディアン>バスター・キートンの傑作短篇『キートンのマイホーム』『キートンのスケアクロウ』の場面が効果的に挿入される。
フランソワ・トリュフォー監督の『突然炎のごとく』もさりげなく引用されている。トリュフォーも、アイリス・イン、アイリス・アウトやコマ落としなどのサイレント映画の技法を積極的に活用した監督であることは知られている。トリュフォーやゴダールたちが牽引した<ヌーヴェル・ヴァーグ>の運動は、映画の古典を再発見することによって、映画史に新たな一頁を切り開いたが、ダヴィデ・フェラーリオ監督は、低予算、少数スタッフ、ノースターという<ヌーヴェル・ヴァーグ>の映画づくりにオマージュを捧げることによって、ふたたび自らの映画的初心を確認したのである。
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