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 イタリア、トリノの映画博物館=モーレ・アントネッリアーナ。ここで夜警をし、暮らしているマルティーノは、映画の中で生きているような男。ところが、ある事件をきっかけとして現実から飛び込んできた一人の女とその恋人によって、そのメリーゴーランドのような夢の生活は思わぬ方向へと廻り始めていく。 

マルティーノ(ジョルジョ・パゾッティ)はモーレの使われていない小部屋を自分の住処とし、さながらバスター・キートンの映画のセットのような内装のなかで、夜は夜警の傍らにフィルムを回し、昼は古びたカメラを持ってトリノの街を写し取っている。生身の人間とかかわることはほとんどない。

 アマンダ(フランチェスカ・イナウディ)はちいさなハンバーガーショップで働いている。しかしマネージャーとの折り合いも悪く、今日も深夜24時の終業時間をめぐって言い争いをしたばかりだ。先の見えない仕事に苛立ち、このままこの街で自分の夢も沈んでしまうのではないかと落ち込む日々。恋人のアンジェロ(ファビオ・トロイアーノ)がバイクで店に迎えに来てくれるときだけが楽しみだ。

 しかしそんな二人の関係も、決してアマンダの満足のいくものではなかった。アンジェロは車泥棒を稼業としているため、深夜が彼の活動の時間帯。わずかな時間をアマンダと過ごすと、そそくさと部屋を出て行ってしまう。それに本当に仕事のために出て行くのかすら、彼女には確証がもてない。アマンダのルームメート、バルバラ(フランチェスカ・ピコッツァ)だって、アンジェロを狙っているのだから。

 月明かりが美しいある真夜中…。アマンダは今夜もマネージャーと言い争っていた。そして怒りが沸点に達した彼女は、油をマネージャーの下半身にぶちまける。警察に通報され、思わず逃げこんだ場所が近くのモーレだった。事情の説明もなしに、あっさりアマンダを受け入れるマルティーノ。それがふたりの、奇妙な生活の始まりだった。まるで映画のセットの中で俳優たちが演じる物語のような…。

彼女とどう距離をとっていいかとまどっているマルティーノにアマンダはいらだちながらも、アンジェロにない控えめさに惹かれていく。触れ合えそうで触れ合えない、どこかもどかしくも心ときめく時間が、外の喧騒とは別に流れて行く。一方では、警察の捜査がアンジェロにまで及んでいた。

 ある夜、ようやく少し打ち解けてきたマルティーノは、アマンダに自分が撮影したフィルムを見せようという。そこにはトリノの街が、過去の映画へのオマージュのように映されていた。やがてそれは少しずつ様相を変え、アマンダが映し出されていく。それもモーレに迷い込む前のアマンダが。フィルムは彼女自身が忘れかけていたような感情まで映しとっていた。マルティーノが長い間、ハンバーガーショップの顧客だったことさえ、その時まで気づかなかった。それまでのささやかなマルティーノの思いが、やがてアマンダの心を満たしていく。そしてふたりはベッドをともにするのだった。

 しかし時間は、彼らのそんな想いとは別に進んでいく。アンジェロがハンバーガーショップのマネージャーに無理矢理、警察への告訴を取り下げるよう迫ったため、アマンダは無事自宅へ帰れることになったのだ。後ろ髪を引かれる想いをしながらも、モーレを後にするアマンダ。同時に、何事もなかったかのようにアンジェロとの生活に戻ることの違和感も感じていた。

 一方、マルティーノのアマンダへの想いは、日々募るばかりだった。その強い想いは、アンジェロに果たし状をつきつけるという行為に及ぶ。しかしアンジェロは冷静に、どうするかはアマンダの意思にまかせようとマルティーノに提案する。そしてアマンダの答えは、どちらも選ばない、だった。

 3人の複雑な想いが交差した恋愛関係が始まった。それは片方のバランスが決して崩れてはならない、繊細な関係でもあった。しかし、生身の感情を知ってしまったマルティーノは、そのバランスを保つことはできない。映画の世界から、現実の世界の感情に触れることの喜びを知った彼は、長年勤めてきたモーレの夜警を辞める決心をし、そしてアマンダと暮らしたい、という思いをぶつける。保たれていたバランスは、人間関係に無垢であるがゆえにその強さをもったマルティーノによって壊され、その強さに惹かれてしまったアマンダの想いまでも決定づける。

 ふたりの想いを敏感に感じ取ったアンジェロは、冷静に身を引いていく。アンジェロに想いを寄せるバルバラを旅に誘うこともするが、それが彼の本望ではない。整っていた世界は、少しずつほころびを見せ始める。そしてやがて、トリノの夜は彼を無常に飲み込んでいくのだった…。

 トリノに散ったアンジェロ。そして生きていくアマンダとマルティーノ。生きていくことを選んだふたりに、人生は厳しくもやさしくつつみ込んでいく。

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